心療内科ってなぁに? 第57回 “脳”にも“限界”がある!?

「“脳”にも限界があるので大切に使ってくださいね」と患者さんに伝えると、「え~!」とびっくりされます。「“脳”は無限大と思っていました」との返事。「ああ、自分もそうだった」「以前は“脳”は無限大と思っていた」、そして「過信して無理をし過ぎて体調を崩し、周りの人から多くの手助けをもらった」ことを思い出します。

心療内科はストレス関連の病気について深く勉強していくので“脳”についての知識も増えていきます。また、患者さんの治療に関わっていくと、“脳”に関連する症状が治療によってどのように変化していくかについての経験も増えていきます。これらの経験や得た知識を合わせると、“脳”も物であり“限界”があると感じます。

“脳”も疲労しやすくなる

自分自身を振り返ってみても“脳の限界”を実感することがあります。例えば「新しい薬の名前が容易に覚えられない」「3カ月くらい使っていないとその薬の名前が出てこなくなる」「昔は遅くまで“脳”を使っても疲れ知らずだったけど最近は2時間が限界」などです。記憶力の低下は“認知症”の始まりかも・・・このように考えると、少しドキドキしてしまいますが、“認知症”の質問紙を行ってみても基準には当てはまらない様でホッとしています。

患者さんを診ていると色々な気づきがあります。外来では、「昔は全部覚えられたのに」「全部覚えておかないと・・・」と“全部”を気にしている患者さんは、症状が悪化しやすくなる(“脳”が疲労しやすくなる)様です。私も以前は、薬の名前が「どうして覚えられない?」「なぜすぐに名前が出てこない?」と気にした時もありましたが、最近は、「まあいいか」と思えるようになってきました。50歳を超えて、気持ちを切り替えられるようになったようです。

“脳”でいちばん大切なのは

記憶力の低下が悪いというわけではありません。“脳”でいちばん大切なのは、「何をしたいか」「どうしたいか」と“判断できる”こと。記憶は“判断”のための材料でしかなく、必要であれば紙にメモしたら良いのです。

外来で「いざ使おうという時に薬の名前が出てこない」というような場面でも、以前はあたふたしがちでしたが、最近は少し堂々と「お薬の名前がでてきません。少しお待ちください」と、マル秘メモを見ることもできるようになりました。使いたいなと思う薬の名前はメモしてあり、メモを見ると必ず答えが書いてあります。困ったときには「メモを見たらいいんだ」と、気持ちを切り替えたら、とても楽になりました。

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉